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真是後知後觉 Alicesoft 名作 アトラク=ナクア 原作者写的後续短篇,2024刊在官方blog上 https://www.alicesoft.com/information/2024/entry003495.html 这边顺便留个备份好了 --- 系谱 The next series of Atlach=Nacha 小説 ふみゃ 挿絵 おにぎりくん 今日は学校で三者面谈のプリントをもらった。 帰ったら母さんに见せないといけない。 だから今日はちょっと帰るのが烦わしい。 でも何処かに行くあてもないし、寄り道するのも、それはそれで烦わしい。 だから私は、スーパーで野菜と肉を买って帰り道を歩いている。 今日もそんなに食欲は无いので、サラダと鶏の香り焼きぐらいにしておこうと思ってい る。 缓やかに、弓なりに反った歩道の无い道を歩く。 车が来るまでは真ん中でいいか。 両脇には道幅半分の距离を开けて、そんなに深くない林と畑なんかが広がっている。 弓なりの顶へ差し挂かった。 前方にまたとろとろと、坂とも言えない下り道。 しばらく向こうから蛇行して、所々脇道をつけながら远くまで続いているのが见渡せる 。 远くの、背の低い山の斜め上に太阳が浮いていた。 まだ沈みはしないけど、差す光は少し橙色っぽい。 のどかだ。ここは保养地だ。 人口は少なく、住民は皆、农家か宿泊施设経営か、あとちょっとだけ、ご近所相手の商 店主。 それから学校関系者。 うちみたいなのは珍しい。 ......つまり、何もしていない母子二人なんていうのは。 うちは母子二人で暮らしている。 母さんは无职だ。 疗养......ということになっているらしい。 奇异の目ももう定着してしまったからどうということもないけど、 そろそろここへ来て三年近くなるから引っ越しの时期だろう。 时期が来ると、祖父が行き先その他を手配する。 母は异常だから。 歳を取らないから。 ひとつ土地に长くはいられないのだ。 https://i.meee.com.tw/VPU6xm3.jpg
少し锖びた、クラシカルなデザインの鉄栅の门を开けて中へ入る。 潅木が郁苍と茂ってしまっている短いアプローチの先に、平屋建ての手狭な家がある。 ......本当は家じゃない。祖父の别荘だ。 「ただいま」 私は简素な玄関を上がり、居间へ入った。 「お母さん......」 「ああ、お帰りなさい」 母さんは庭に面した椅子に座って、夏向きのカーディガンを编んでいた。 生成りの糸を挂けた编み棒を手に、 透かし编みの编み地と长いおさげを膝挂けの上に垂らした少女。 それが母の姿だ。 少女の様な外见で、浮き世离れした暮らしぶりとあどけない笑顔を见せる。 下手をすれば私と同い年ぐらいにも见えるかもしれない。 次の土地からは、姉妹なのだと诈称した方が良いだろう。 全然似てないけど。 「三者面谈なんだって......来ないよね」 「初音に任せるわ」 母さんは私が渡したプリントを一文字だに読みもせずに、にこやかに微笑った。 私は少し苛立ったけど、いつもの事なので怒りはせずに プリントを受け取りかえして鞄にしまった。 「じゃあ、病気っていうことにしとくから......多分担任が见舞いに来るけど」 「ええ」 「晩ご饭、サラダでいいよね。あと、鶏」 「ええ」 「じゃ......」 ご饭のしたく、してくるから。 それを省略して、私は居间を出た。 スーパーの袋を台所に置き、自室へ行って着替える。 今时あまりない古臭い绀のセーラー服を脱ぐと、しくり、と腹部が痛んだ。 まただ。 特别具合が悪い訳でもないのに、昨日から时々腹痛がする。 (あったかくしとこうか......) 母がああいう人だし、祖父の送金をあまり必要以上に使いたくはないので、 私の服は母さんが作ったものが多い。 何にも言わないと白ばっか使うので、特に白系のものが。 私は卯の花色の薄手のセーターを着た。 それから薄いグレーのスカート。 そして台所へ戻り、その上からエプロンをつける。 母さんはあまり家事をしない。 前の土地までは通いの家政妇さんを雇っていた。 でも彼女らにとって母は気持ちの悪い存在だろうから、 どのひとも勤めてもらうのはちょっと気の毒だった。 しくり、と腹痛がする。 母さんは何なのだろう、と时々思う。 本当は时々じゃなく、常にそう思っている。 常に気にし続けているのでその感覚がなくなるほど。 私は鶏肉の皮を剥ぎながら、またその事を思った。 母はまだ学校に通っているような年顷に私を産んだらしい。 らしい、というのも何だが、祖父が话してくれないから私はあまり详しい事を知らない のだ。 母さんは微笑うばかりだし。 どうやらその顷数年行方不明になり、次に戻ってきた时には私を连れていたらしい。 私の父亲が谁なのかもはっきりしない。 ......私が本当に母さんの子なのかも、はっきりしていない。 私は、まな板の隅に溜めた取り除いた鶏の脂肪を生ゴミ用の小さなバケツに移した。 脂で汚れた指先がつや消しの光をぎらっと跳ね返す。 汤沸かしの汤で軽く流すと、弾いた水の珠のせいか反射は更にきつくなった。 祖父はそこそこの大きさの商事会社を経営していて、昔はそれなりにアクの强い人物だ ったらしい。 でも私が知っている姿は、疲れた、老境に差し挂かった『父亲』だ。 私はそんな出自だから、祖父と私は何処かぎくしゃくしている。 まともに込み入った话が出来なくなった母さんの代わりに、电话で色々の话はするけれ ど。 祖父の気概を抜いてしまったのは私なのだろう。 一人娘が行方不明になり、その上谁のものともしれない子供を连れて帰ってきた时、 あのひとは擦り切れてしまったのだ。 祖父は谛めた様に私に优しい。 私が本当に母さんの子なのかどうか、検査の类をしないのは、祖父が嫌がったからだ。 私たちの意向で、离れて、なるべく接触を持たずに暮らしているから、きっと寂しいの だろう。 数年に一度顔をあわせる度に、変わらない母さんの姿を见て、 祖父はそのまま灭んでしまいそうな顔をする。 母さんはどうして年を取らないのだろう。 そんな奇病もあるとは闻く。 ならば、どうして母さんはそんな风に病んでしまったのだろう。 私は野菜を盛る手を止め、美味しそうな匂いと音を立てるフライパンのふたを开けた。 鶏は良い具合に焼けている。 母さんを食卓に呼ばなくちゃ。 しくりと腹部が痛んだ。 ◇ ◇ ◇ 夕食後、私は片道三十分かかるスーパーへ买い物に出た。 シャンプーを切らしていたのを忘れていたし、図书室から借りていた本を読み终えてし まったから。 うちには映るテレビが无いので、新闻と手持ちの本を読み终えてしまうとする事がなく なってしまう。 テレビやラジオはどうも好かない。騒々しすぎる。 もうシャッターが开く事のないタバコ屋を贴りつかせた古い民家の隣に、 目的のスーパーは、驻车场に向いた一面をこうこうと光らせて建っていた。 私は、ガタがきつつある自动ドアを通り抜けて中へ入った。 田舎スーパーだ。都会のコンビニを意识して十时まで店を开けてみても、 八时を过ぎれば店内は闲散としている。 第一、奥の壁面の六割方を、ろくに包まれてもいない野菜が 束で埋めている所からして差が大きすぎる。 雑然と棚に积まれた数々の商品は、商品というより物资といった风情で 良くも悪くもこの土地に相応しい。 私は、日中立ち読み客が乱したままの周刊志の棚から、若い主妇向けの家政雑志を取っ た。 かぎ针编みのサマーニットなんて记事が出ている。 また母さんが编みたがるだろうか。 でも煮物の特集は役に立ちそうだったので、私はそれを买う事にした。 あとはシャンプーか。 洗髪料の置かれた棚に向かおうと横を向くと、隣の棚、店の隅に配置された 卑猥な写真志を手にした男がこちらを见ていたので厌な気持ちになった。 背を向け、远回りになるけど入口侧から通路を回る。 棚の角を曲がる时に目をやると、そいつはまだこちらを见ていた。 とても厌だ。 一体どういう了见で、田舎で、夜だからって、 スウェットの上下のままで买い物に出られるのだろう。 どう见ても寝巻じゃないか。 どういう了见で、嫌悪をあからさまにしている见知らぬ女に ニヤニヤ笑いかける事ができるのだろう。 (気持ち悪......) 私は口中で呟いて、さっさと目的の棚に向かった。 男が见ていた左の半身に、ひどく粘つく秽れがついた様な気がして、とても厌だった。 しくり、しくりと、腹痛の间隔が短くなってきている。 ◇ ◇ ◇ ナイロン袋をかさかさ言わせながら元来た道を帰る。 いい加减自転车でも买えばいいんだけど、と自分でも思うが、 やっぱり何となく自転车も性にあわないのだった。 私の様なちっぽけな娘は、自分の足で歩くしかないのだと。 何の意味も无いけれど、そう感じる。 自転车で景色を早送りする自分には违和感があった。 家には母さんだけがいる。 だから、そんなに早く帰ってどうするんだという気がするのかもしれない。 蛇行する道の先に今度は月が浮いていた。 まだ地平から远いからひどく小さく见える。 その分辉きが凝缩された様な、冷たく、硬く光る月だった。 私は何となく、太阳より月が好きだ。 そうだな、月の色をしたカーディガンが欲しいな、とちょっと思った。 つやつや光るモヘアの糸を买ってきて、今度母さんに编んでもらおう。 背後から、シャーッと地を走る音が小さく闻こえてきた。 自転车だ。自転车がくる。 私は道の左端へ寄った。 しくしくと腹が痛む。 ふ、と、何の前触れもなく全身に寒気が走った。 ......违う、それが前触れだ。 すぐ後ろでガチャンと激しく自転车の倒れる音がした。それから、男の荒い息遣い。 私は駆け出した。 走りながら振り向く、あの男だ。 「やっ......!」 手首が掴まれ、强く引かれた。 身动きがとれなくなった。 目の前に男の胸がある。気持ち悪い。 はあはあと生暖かい息がこめかみに吹きつけてくる。 腰が抱きすくめられ尻が抚で回されていた。 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。 恐ろしく冷ややかな悪寒が触られる部分から这い上がってくる。 https://i.meee.com.tw/fhiJRkB.jpg
「はっ......あっ......!」 声は出なかった。 ただ震えた呼気が肺へ落ちてくる。 私は両手で男の胸を叩いた。 叩き、突っ张り、目茶苦茶に暴れる。 男はびくともしない。 「ちょっと......ちょっとだから......」 上擦った呟きが耳に触れた。 尻の手が尾てい骨まで寄ってきていた。 「ちょっと......ちょっと触るだけだから......」 怒りと嫌悪と恐怖に目の前が白くなり吐き気がして息が诘まる。心臓を吐きそうだ。 男は厌らしく骨に沿って指を伸ばした。 「......ッ......!」 高く、息を饮む音が私の喉で鸣った。 『ひっ』だなんて、そんな拟音じみた音を自分が出すことがあるなんて思わなかった。 男の指が私の股间に当たっている。 「い......やぁ......」 やっと微かに声が出た。それで私は自分の歯ががちがちとかみ合っていないことを知っ た。 男は更に手を下方へ降ろした。 スカートの裾より下に降りて、その中へ入ってくる気だ。 「嫌っ......嫌、いやああああっ!」 ざらざらした、ごつい、体温の高い男の指先が私の性器をかすめた。 男の指の感触との间には、ぬるついた粘液の膜がある。 それを感じた瞬间、私は弾かれた様に大声を上げられるようになっていた。 面食らった男は私にわずかに突き飞ばされた。 よろよろと道に出る。 二歩も踏み出さないうちにまた手が掴まれた。 「待てよ......待ってよ......触らせろよ......!」 そんな事を、男はまだ言っている。 私は何かを踏んでバランスを崩し、地べたに崩れ落ちた。ああさっき买ったシャンプー のボトルだ。 男のもう一方の手が左肩を掴んだ。 押し倒されかけて远ざかる男の股间が不自然に尖っている。その意味がわかるまで一瞬 かかった。 こんな风になるなんて知らなかった。 私は背をアスファルトに打ちつけた。 头はガードレールもない道路の端を落ちて雑草のあぜ道へ。 「ぐっ......!」 男の片手が胸を押さえ、无茶な体重を挂けてのしかかってくる。 かぶりを振る视界に、真っ黒く阴に覆われ表情もわからない男の顔と、 横倒しに舍てられた自転车が映る。 车も人もまだ来ないのか。 男が首筋に唇を当てた。 ぬるく、臭く、この上なく気持ち悪い。 私は。 爪先に恐ろしい感触が伝わったけれど男の顔を深く引っ掻いた。 「ぎゃッ......!」 男が上体を跳ね上げた。 膝立ちになった股间に相変わらずあの膨らみがある。 私はそれを思いきり蹴った。 ◇ ◇ ◇ 吐泻物が水道水との涡を巻いて白い陶器の上を流れてゆく。 私は真っ直ぐに风吕场へ駆け込み、脱衣所の洗面台で吐いた。 口をすすごうとして指先にこびりついた血を见て、もう一度。 駄目だ。 私はもう駄目だ、谁か助けて。 安全なはずの场所に帰ってまだ、私の全身はそう考えている。 とにかく热い汤を浴びたかった。 私は壁にすがりつく様にして立ち上がり、肌を晒す不安をまとわりつかせながら服を脱 いだ。 「......ッ......」 上下の歯が、一层がちがちと鸣り出した。 下着に血がついている。 いつ伤を负ったんだろう。かすめられただけなのに、一体どこに伤をつけられたんだろ う。 それは、私はもうきれいな躰ではないのだという宣告の様だった。 洗わなきゃいけない。 表面だけでも。 躰を洗わなきゃいけない。 私は风吕场へ入り、热いシャワーを头から被った。 しばらくは何も考えられなかった。 やがて、石鹸を泡立てなくてはという事に思い至る。 私は浴槽の横に置かれた石鹸を取ろうとして、 そして、 その场にへたり込んだ。 太腿を。 血が伝っているのが见えた。 膝头まで、途中で二筋に别れまた合流する血の筋が。 ずくん、ずくんと腹が痛む。 遥か上方から降り注ぐ汤の雨が、见る间に血流を洗い流した。 けれどそれは幻ではないのだ。 へたり込んだ脚の间から、薄赤い汤が排水沟へ流れてゆく。 胎が痛む。 「なんで......な......んでっ......!?」 ずくん、ずくんと。 何なのだろうこれは、何なのだろう。 私は持てるだけの知识の中から答を探してはまた舍てた。処女を无くした訳ではないの だ。 ああ。 そして思い出した。 これは『生理』だ。保健の授业で习った。 「ひ......あッ......!」 ずくん、と。 腕が痛んだ。 右手が破れそうに痛い。 「あ......あ......うあぁッ......!」 痛い。 私は左手で、痛む右手を握り缔めた。 その、手が。 ぽこっと膨れあがった。 黒く、硬く。 节くれだって膨らんでゆく。 https://i.meee.com.tw/9Vu9AZE.jpg
「ああ......あ......ああああああッ......!」 何故。 私の手が。 黒く、黄色く、斑の钩爪と、白い房毛を备えて、 こんな、 これは、これじゃあまるで、 バケモノの手だ。 「な......にこれ......何これぇえッ......!!」 私は血の流れるタイルにその手を押しつけた。 钩爪に触れてタイルが欠ける。痛くも何ともない。 握り缔める动きは易々と床を掻き取った。 「......初音......?」 「......!」 脱衣所に母さんが入ってきた。 「初音......どうしたの?」 「何でもない......来ないで......来ないで!」 叫ぶ私の前で、银色のノブが滑らかに回った。 「来ないでってばぁッ!!」 「だって......」 そこで、母さんの言叶は途切れた。 ああ、円锥に降り注ぐ汤の粒の向こうで、母さんが立ち尽くしている。 私は呻きも上げずに母さんを见上げていた。 前髪から引っ切り无しに雫が落ちる。 裸の両肩にはりついた长い髪が汤を含んで重い。 谁か......谁か助けて。 谁か。おかあさん。 「お母さん......」 私は汤気の中でかすれた声を出した。 「お母さん、なに......? これ......」 「......」 「ねえお母さん、これ何......? どうして私」 「......様」 「え?」 惊いた顔すらせずに立っていた母さんが、口を开いた。 「......姉様」 「えっ......」 母さんは。 服を着たまま、シャワーの下に飞び込んできた。 私を抱き缔めに。 「姉様......姉様、姉様っ......!」 「や......やだ、いやっ......お母さん!? ねえ、お母さんッ......! おか──」 私の视线はそこで固定された。 目茶目茶にすがりついてきていた母さんが、私の両頬を押さえて私を真っ直ぐに见つめ てきた。 私はすくんだ。 怖い。 歳を取らない娘が、目を见开いて私を见ている。 「姉......様......」 母さんは爱しげに私の唇を指でたどり、 そして、 唇を重ねてきた。 「ゃ......」 「姉様」 「いやぁッ......!」 私は母さんを押しのけて浴室を出た。 ◇ ◇ ◇ ぼたぼたと、濡れたままの髪から水滴が落ちる。 背後の、叩きつける様に闭めた玄関の扉の内侧に意识を向けながら、私は掴んできた服 を着た。 濡れた躰に引っ挂かってとても着にくい。 それに......それに、変化した右手をどう扱えば良いのかわからない。 だけど私は急がなくてはならない。 扉の向こうに母さんが追ってくる物音はまだしないけれど、でも── 薄赤い水が濡れた脚を伝っていた。 手元には茶色く血を扫いた下着しか无いから、私は震えながらそれを履いた。 そして私は夜の中へ駆け出した。 アスファルトの感触はいけない。 ひとの通る所はいけない。 隠れるなら、森の中がいい。 私は右手をセーターの下に隠して、森のある方へと走った。 森。 镇守の社が近い。 (でも......) 隠れてどうなるというんだろう。 わからないまま石段を昇りきり、私は神社にたどりついた。 真っ暗だった。 小さな丘と小山の中间ぐらいの土地に建つ神社。 社の前だけが少し开けていて、里手には树々が立ち并んでいる。 木肌の间の空间は、夜気と、先へ行くほど浓くなる闇が埋めていた。 「......」 私は息をひとつ吐いた。 地上を浸す夜の中で、私は頼りなく小さい。 ここにもやがて朝がくる。 日が昇った後、血を垂れ流す脚で、この手を抱えて、私は何処へゆけば良いのだろう。 「......ど......うして......?」 私は社の縁へ上がり、膝を抱えて顔を埋めた。 首から肩へ张りつく髪の毛が冷たい。 右手が重い。 この手は重く、硬すぎる。 しんしんと、叶擦れの音が私の上に降り积もった。 境内の横に立つ、注连縄を饰られた古木が梢を揺らしている。 周囲の若木がそれを追う。 さわさわ、さわさわと。 树々が共鸣している。 https://i.meee.com.tw/gLSCDC8.jpg
「......」 私はそっと顔を上げた。 どうしてそんな事が私にわかるのだろう? 树々が共鸣しているなんていう事が。 ──............の...... ──......の............ ──............の...... 「えっ......」 树々が共鸣している。 古木が......风に乗せて何かを......感じた事を......空间に放っている。 ──............の............ ──......の............ ──............の............ ──............珍しい............ ──......珍しい......の............ 「......なに......? ......私......?」 私の问いは、呼気に乗って空间に溶けた。 树々の落とす気配からはずっと低い场所に。 ──珍しい............ ──............珍しい............ ──......珍しいの............ ──............蜘蛛...... ──蜘蛛の............ ──............蜘蛛の仔が............ ──珍しい......の............ 古木の思う事は、若木の共鸣と合わさって四方八方から降ってくる。 私はゆっくりと立ち上がり、社の下を出て古木の前に立った。 「蜘蛛って......なに......?」 梢を见上げてそっと闻いてみる。 ──......娘............ ──............娘............ ──......娘子............ぬし......ぁ...... ──ぬしゃあ......蜘蛛だろう............ ──............蜘蛛だろう............ 「わかんないよ......蜘蛛ってなに......?」 闻きながら、私は心がぴりぴりと波立つのを感じていた。 きっとその先は闻いてはいけないのだ。 いけないのに、问いはもう発してしまった。 ──............ぬしゃ...... 古木が、若木が答える。 ──......ぬしゃあ蜘蛛だろう............ ──............ひとではなかろう...... ──あやかしだろう............ 「......っ......!」 ひとではない。 蜘蛛だろう。 あやかしだろう。 そういって树々はさらさらと梢を揺らす。 「どうして......どうしてそんな事言うの......?」 手が疼く。 ずくずくと、もう痛まなくなった胎の代わりに、右手がずくずくと疼く。 ──珍しい............ ──............珍しいの...... ──蜘蛛の仔が......まだ............ ──............まだおるとはの............ 「蜘蛛じゃないっ......!」 私の叫びは树々の干に当たって跳ね返り、宙に消えた。 韵、と、响きを残して。 「私はバケモノじゃない......どうしてそんな事言うの!?  ねぇ、どうして......なんでそんな事......! 手が......私の手がこんなだから ......!?」 跳ね返り、跳ね返り。 私の声は几重にも梢に当たって树々を黙らせた。 そしてまた古木は意识を放つ。 ──なんじゃ............ ──............なんじゃ............ ──......なんじゃ......知らぬのか娘子...... ──ぬしゃあ蜘蛛だ...... 「そんなこと闻いてない......!」 ──......ひとではないよ............ ──............ぬしゃああやかしだよ............ 「そんな事......! そんな──」 「......あ」 「......!!」 突然、明确な声が耳を打った。 人间の男の喉から発せられた音声だ。 私は右手を背後へ隠し、石段の方を振り向いていた。 「......ああ......」 男は今度はそう言った。 喉奥で低く、さっきは息を饮む様なかすかに怯えた感じがあったのに、 今度は『纳得がいった』という风に。 男は私が谁かわかったのだ。 私も男が谁かわかった。 薄汚いスウェットと逃げてきた様な风体、顔に残った引っ掻き伤。男は、さっきの ...... 「お前......さっきは......」 男の感情と声色が残忍な色を帯びる。 强い怒りと暗い歓びが、鸟居の下、神域の空気を侵している。 ──......娘............ ──............娘子............ ──......娘子よ............ ──娘子............ 不穏な空気に树々が騒いだ。 私の脚には冷えた血が伝っている。 「い......やぁッ......!」 捕まったら、今度こそ犯される。 私は踵を返して里の森へ駆け込もうとし、乾いた土で足を滑らせた。 ついた右手が地面をえぐる。 立ち上がるすぐ後ろに男が迫ってきていた。 荒々しい息が闻こえる。 「やだッ......!」 走る肩が掴まれた。 男はまた乱暴に私を引き寄せ、振り向かせた。 背に腕がまわる。顔に乱れた息が挂かる。 さっきみたいに、抱きすくめていやらしい事をする気なんだ。 「やだっ......嫌ぁッ......!」 私は暴れた。 身をよじり、男を押しのけようと、手を── 「......えっ......」 「あっ......」 不意に、男が気の抜けた声を出した。 私の右手を见て。 私の膨れあがったバケモノの右手を见て。 「うわっ......な......!」 男は私を解放した。 私は右手を抱えて茫然と立ち尽くしていた。 娘子、娘子よと、古木が叶を鸣らしている。 「何だそれッ......!」 ずきん、と。 引きつった男の悲鸣は私の胸に突き刺さった。 こんなにも凶凶しい人间が、私を恐れ、忌んでいる。 「......私......」 私は、とても、辛くて。 泣きそうになりながら男に微笑いかけた。 「私は......なに......?」 「う......うぅっ......!」 男はくぐもった呻きを喉で鸣らして私に背を向けた。 石段へ向かって駆け出す。 「あっ......」 駄目だ。 あれを逃がしてはいけない。 あれを人间の世界に帰してはならない。 一瞬そう思ったまま、脚は动かせなかった。 私はただ、呼び止める形に右手をかざして男の背中を见ていた。 男が鸟居に近づく。 石段を降りきって、道路へ出て......男は谁かに话すだろうか。私のこの手を见た事を 。 駄目だ。それは駄目だ。駄目...... 「駄目えぇぇぇッ......!」 その瞬间、私は何かの力が右手へ集まり、溢れ出すのを感じた。 目の前が白く染まる。 闇と、绢のつやめいた光が交错する。 ちからの奔流は长い形を成していた。 後から、後から、长く伸びて宙を走り、易々と── 易々と、男を缚り上げて地面に転がした。 「あ......ぁ」 「あああああっ......」 二人分の畏怖が、それぞれの口からこぼれて土に落ちる。 ──............娘子...... ──......娘子............ ──............蜘蛛だ...... ──蜘蛛だの...... 树々だけが当たり前の様にその光景を见ていた。 「あ......ひっ......ひぃっ......!」 男は见苦しくもがいている。 嗫きが飞び交い降り积もる中、私はふらふらと男に近寄った。 二の腕から膝までが粘つく白いものに覆われていた。 白いものは所々で毛羽立ち、ほつれて、ゆらゆら揺れている。 ──......蜘蛛だ...... ──蜘蛛だの............ そうか。蜘蛛の糸なんだ。私が出した...... 私は男の傍らにしゃがんだ。 「ああ......あ......あああっ......」 覗き込んだ割と不细工な顔は、更に丑く歪んで意味不明の喘ぎを上げている。 そうか。 私は思った。 この人はもう、帰せないね。 「ああああ......バケモノッ......!」 丁度、男が喉を反らして叫んだので、私は右手でその喉笛を押さえつけた。 ひゅっと、心地好い恐れの音がする。 「......助......け......」 男は润んだ目で私を见上げている。 周囲が暗いから、表面に私の姿が映る事はなかった。 私はどんな顔をしているのだろうか。 多分无表情だ。 ──娘子...... ──......娘子よ............ ──娘子よ............ 杀すにはどうしたら良いのだろう。 首を缔めれば良いのか、喉を溃せば良いのか、それとも切り裂けば良いのか── ──......娘子よ............ ──............杀すのか......? ──ぬしゃあ杀すのか......? 古木が、そんな风にさわさわと揺れた。 「......だって」 この男を仕留めなければ、私は人の世に帰れない。 ──止めはせぬ...... ──......止めはせぬよ...... ──わしゃあ止めはせぬよ............ 「だって......!」 私は多分、顔を歪めた。 树々は私を止めない。ひとの生き死になど树には関系ないのだろう。 ならば私は? 「ねえ......」 私は房毛の生えた手首を左手で掴んだ。 そして虚空に问うた。 「ねえあやかしって何......!?  蜘蛛ってなんなのよ......バケモノって、なんなのよ......!」 しん、と、短いしじまが访れる。 男はもう何も言わず、固唾を饮んでいるらしかった。 ──........................ ──......ぬしだ............ 古木は言う。 ──ぬしゃあ蜘蛛だ...... ──......ぬしゃあ............ ──............ぬしの躰は...... ──......躰は......あやかしの作りをしておるよ...... 「......」 私の躰は、あやかしの作りをしている。 私は男の喉から手を离した。 「杀......さない......」 声に出して呟いてみる。 私は右手を胸に抱いて、気がつくと涙を流していた。 「......杀さないよ......私は......杀さない......っ......」 ぱたり、と、涙が硬くなった皮肤を打つ。 ぱたりと、スカートの腿を叩いて生地に染み入る。 ──............さよう......か...... 古木の声が少し远くなった。 ──......さようか......娘子............ ──さようか............ ──............さようか............ やがて木々の気配は、単なる叶擦れの音に変わっていった。 「......っあ......あぁあっ......!」 うろたえた声に顔を上げると、いつの间にか自由になった男が逃げていくところだった 。 私は止めなかった。 私の右手は、见惯れたひとの手の形に戻っていた。 ◇ ◇ ◇ 家に戻り......居间を覗くと、着替えた母さんが濡れた髪を拭いていた。 言叶を失っている私を见て、母さんは『お帰りなさい』と言った。 私はその懐かしさに倒れそうだったけれど、二つだけ质问をした。 『お母さん......私は何?』 母さんは『初音でしょう?』と答えた。 そしてもうひとつ。 『じゃあ、姉様って谁......?』 母さんは、 『あなたよ』と、艶やかに笑って言った。 翌日、私は祖父に电话をした。 引っ越したいと。 この土地を离れて、都会で暮らしたいと。 ......それから、母さんを引き取って欲しいと。 人の多い土地へ移りたかった。 ひとりで、大势の中に纷れたい。 祖父は详しい事は问わないまま、私の希望を闻き入れてくれた。 私たちは一度、母の生家へ引っ越した。 母はそのまま祖父の元に残る。 私は来周、少し离れた街へ出る。 少女の様な母を残して── 「......初音」 「んっ......」 居间のソファに身を沈めてそんな事を考えていた私を、母が戸口から呼んだ。 嬉しそうに、私を手招きしている。 「なに......?」 「おいでおいで......いいものをあげる」 「何......また」 いつもの様に、何か编んだんでしょう。 少し面倒くさく思いながら戸口へ立った私に、母は予想通りのものを差し出した。 「はい。少し大きく作ったの」 予想通りの......つやつや光る、月の色をしたカーディガン。 あの日编んでもらおうと思ったもの。 「きっと似合うわ」 初音は白が似合うから。 子供の顷から何百回と闻いた台词を闻いて、 私は贳ったばかりのカーディガンを抱き缔めて泣いていた。 「どうしたの......?」 「......ありがとう......」 「どうしたの......服が濡れちゃうわ、初音......」 「ありがとう、ごめんねお母さんっ......」 右手と、胸が、しくりと痛んだ。 私たちは、しばらくそうして向かいあっていた。 https://i.meee.com.tw/WJDAYUB.jpg
-- ※ 文章网址: https://webptt.com/cn.aspx?n=bbs/H-GAME/M.1758903383.A.909.html ※ 编辑: takase (125.230.110.145 台湾), 09/27/2025 00:32:20
1F:→ breezeddd: 这个算是手游超昂大战该作合作时一起出的, 09/27 12:08
2F:→ breezeddd: 另超昂也有这边提到的二代目初音登场... 09/27 12:09
3F:→ takase: 原来如此....不过还是让我对後续抱持着淡淡的期待吧 ;D 09/27 13:10
4F:→ takanasiyaya: 三十年力量 09/27 17:41
5F:推 pipi5867: 印象中 这个最早是收录在官方的设定集之类的短篇 10/05 15:29
6F:→ pipi5867: 以前我为了这个短篇有特别去买XD 10/05 15:29








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